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東京地方裁判所 平成6年(ワ)3959号 判決

原告

牧野文子

被告

山田英二

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

一  被告は原告に対し、金五五二万〇六六五円及びこれに対する平成三年三月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

第二事案の概要

一  争いのない事実

1  事故の発生

平成三年三月三一日午前五時ころ、原告が、被告運転の普通乗用自動車(以下「加害車両」という。)の助手席に同乗していたところ、東京都港区赤坂二丁目一〇番付近道路において、被告が飲酒の酩酊状態で運転したため、右自動車をガードレールに衝突させる事故を起こした。

2  責任原因

被告は加害車両の保有者であり、自賠法三条により、損害賠償責任を負う。

二  本件の争点

1  原告が本件で負つた傷害の治癒時期と損害額

原告は、本件で負つた傷害は平成三年一一月九日まで治療を要し、同日まで休業したので、その間の治療費、休業損害及び慰謝料等が本件によつて原告が負つた損害であると主張するのに対し、被告は、原告の傷害は同年三月三一日から二週間後には治癒しており、その間に生じた損害のみが本件と因果関係の認められる損害であると主張する。

2  好意同乗者として過失相殺されるべきか

被告は、原告は、本件事故当日、午前二時ころから午前四時三〇分ころまで被告と共に飲酒し、その後被告運転の加害車両に危険を承知しながらあえて乗車し、本件事故にいたつたものであるから、原告の被害額から二割を減額すべきであると主張するのに対し、原告は、運転の途中、原告は被告に対し、運転を交替するよう強く懇願したが、被告はその制止を振り切つて運転を継続し、本件事故にいたつたものであるから、損害額から減額されるべきではないと主張する。

3  原告と被告との間で、原告が被告に対し、三か月分の休業損害を支払う旨の合意が成立しているか

原告は、予備的に、平成三年四月ころ、原告と被告の間に、原告の三か月分の休業損害を賠償する旨の合意が成立したと主張するのに対し、被告はこれを否認する。

第三争点に対する判断

一  原告が本件で負つた傷害の治癒時期と損害額について

1  甲三の一ないし五、乙三ないし五、六の一及び二、七の一及び二、八の一及び二、九、弁論の全趣旨並びに争いのない事実によれば、以下の事実を認めることができる。

(一) 原告は、本件事故で受傷後、すぐに宮島病院で治療を受け、頸椎捻挫、右示指・中指挫創で全治二週間と診断され、ガラス片の除去手術と湿布等の治療を受けた。

原告は、同日、さらに月島サンマリア病院でも創傷の治療を受けたが、同病院における診療でも、X線検査の結果、異常は認められず、頸部打撲、胸部、腰部、右中指挫傷と診断された。

(二) 原告は、その後、宮島病院及び月島サンマリア病院のいずれの病院にも通院せず、全く治療を受けていなかつたが、約三か月後の同年七月九日に、宮島病院に一日通院した。ところが、原告は、再び約二か月間通院せず、その後、同年八月三一日、同年九月二日、四日、六日、一一日、二五日、同年一〇月三〇日、同年一一月六日と宮島病院に通院した。

さらに原告は、宮島病院で症状固定との診断を受けた後の同年一一月一五日にも、約八か月ぶりに月島サンマリア病院に通院したものの、同日の診断でも、他覚的所見、他覚症状は認められず、その後、再度同月一九日に同病院で治療を受けただけで通院を終えた。

2  以上認定した事実によると、原告が本件事故で受けた傷害は、初診時も、その後も、X線検査の結果は異常が認められないなど、他覚的所見がなく、かつ、初診時に全治二週間の比較的軽傷と診断されているところ、原告は、初診後、一度も治療を受けず、初診から約三か月を経て一度だけ通院し、さらにその後も約二か月間全く通院していないのであつて、結局、原告は、初診後、約五か月もの間、ほとんど治療を受けていないのである。そして、原告が期日に出頭しないため、初診時の平成三年三月三一日から、次ぎに宮島病院に通院した同年七月九日までの間の原告の傷害の治癒状況、原告が初診後約三か月間、全く通院しなかつた理由、約三か月を経て宮島病院へ通院した理由、その後さらに約二か月間通院しなかつた理由、約二か月後に通院を再開した理由等が明確ではないため、前記のとおりの原告の治療の経過を見ると、結局、原告が本件事故で受けた頸椎捻挫等の傷害は、初診時の診断どおり、受傷後二週間で治癒したとの疑いがぬぐい去れず、その後の治療等と本件事故との因果関係は、証拠上認定できない。

従つて、本件事故と相当因果関係のある損害は、受傷後二週間の治療に要した費用、その間の休業による収入の減額等の損害のみであると認められ、その後の期間の損害は本件事故と相当因果関係のある損害と認定することはできない。

二  好意同乗者として過失相殺されるべきかについて

甲一の一ないし一五及び争いのない事実によれば、原告は、被告と他に一名の友人と共に、飲食目的で被告運転の加害車両で六本木に出かけ、事故当日の午前二時ころから、二件の店で被告らと共に飲食し、その後、被告が、帰宅する原告を送るため、原告は被告運転の加害車両に同乗し、運転開始後間もなく、被告が本件事故を惹起したことが認められ、これらの事情によると、原告は、被告が、相当程度飲酒して酩酊していることを十分に分かつていながら、被告に自宅まで送つてもらうため、あえて、被告運転の加害車両に乗り込んでいるのであり、このような事故に至る経過を見ると、原告が被告に対し、途中で運転を交替すると告げていること等を考慮しても、本件では、被告の負つた損害額から二割を減ずるのが相当である。

三  原告と被告との間で、原告が被告に対し、三か月分の休業損害を支払う旨の合意が成立しているかについて

甲二号証中に、被告から原告を見舞う電話がきた際、原告が被告に対し、三か月分の保障を依頼したところ、被告が分かつたと答え、その後被告から原告に対し、二二万円の支払いがあつた旨の記載があるが、原告が期日に出頭しないため、仮に右の様な事実が認められたとしても、被告がその様に返事をした経過が明確ではなく、右発言は、事故直後に被告が原告を見舞つた際の発言であること等を考慮すると、右甲二号証をしても、せいぜい、被告が原告に対し損害賠償責任を負うことを認めたと認定できるにすぎず、他に、原告と被告の間で、三か月分の体業損害を支払う旨の合意が成立したと認めるに足りる証拠がないため、結局、被告と原告の間に、三か月分の休業損害を支払う旨の合意が成立したものとは認められない。

四  損害額の算定

1  原告の損害

以下の(一)ないし(四)の損害額は、被告も自認しているものである。

(一) 治療費 八万二一六〇円

平成三年三月三一日に、宮島病院での治療に要した四万一六〇〇円及び月島サンマリア病院での治療に要した金四万〇五六〇円の合計金八万二一六〇円が、本件と因果関係のある治療費であると認められる(甲三の三、乙三、五)。

(二) 交通費 二〇〇〇円

平成三年三月三一日に、宮島病院及び月島サンマリア病院での治療に要した通院費の合計金二〇〇〇円が、本件と因果関係のある治療費であると認められる。

(三) 休業損害 二〇万四三一六円

原告は、本件事故当時、住友重機械工業株式会社において、一か月金一三万三五〇〇円(甲四の三)、稜陽商事株式会社において、一か月金三〇万四三二三円(甲四の一)の各収入を得ていたことが認められるので、原告が、本件事故によつて休業した期間の損害は、受傷日である平成三年三月三一日から右傷害が治癒した二週間後の同年四月一三日までの一四日間の収入に相当する右の金額と認められる。

住友重機械工業株式会社分 13万3,500円÷30×14=6万2,300円

稜陽商事株式会社分 30万4,323円÷30×14=14万2,016円

(四) 傷害慰謝料 一二万円

受傷日である平成三年三月三一日から右傷害が治癒したと認められる同年四月一三日までの一四日間の傷害慰謝料は一二万円と認めるのが相当である。

(五) 過失相殺

前記認定したとおり、本件においては、右損害合計額の二割を減額するのが相当である。

(六) 合計 三二万六七八〇円

以上を合計すると、原告の損害は右金額となる。

2  損害てん捕 三八万二一六〇円

原告が、本件事故の損害のてん補として、被告から合計三〇万円を受領していることは、当事者間で争いがない。

また宮島病院及び月島サンマリア病院の治療費の合計金八万二一六〇円を、被告が原告に代わつて支払つていることが認められるので(乙三、五)、右金八万二一六〇円についても、原告が被告から損害のてん補を受けたものと認められる。

3  以上によれば、本件における原告の損害は既に支払い済みとなつている。

第四結論

以上の次第で、原告の本訴請求は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 堺充廣)

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